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大阪地方裁判所 昭和58年(む)348号 決定

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨および 理由は、検察官作成の昭和五八年六月 二七日付「準抗告及び裁判の執行停止 申立書」と題する書面記載のとおりで あるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

別紙のとおり。

三、よって、本件申立は理由がない から、刑訴法四三二条、四二六条}項 を適用して主文のとおり決定する。

(右川亮平 松野勉 村山浩昭)

理由

一一件記録によれば、兵庫県飾磨警察署司法巡査が被疑者を逮捕し、大阪府阿倍野警察署司法警察員に引致するまでに約一一時間一五分を要していること、その結果被疑者の逮捕の理由となつた犯罪事実の要旨及び弁護人選任権の告知並びに弁解の機会の付与が遅れたことが認められる。

二そこで、右各遅延が止むを得ないものかどうかを検討するに、逮捕の時間からすれば大阪府阿倍野警察署に引致すれば、それが深夜にわたることは認められるものの、これをもつてただちに右各遅延が止むを得ないものと言うことはできず、むしろ、兵庫県飾磨警察署若しくは最寄の警察署在勤の司法警察員に引致し、速やかに法定の手続を経ることは十分可能であつたと言わなければならない。

三逮捕された被疑者に対して逮捕の理由となつた犯罪事実及び弁護人選任権の告知をすることは、前者は憲法三四条の直接要求するところであり、又、弁解の機会の付与は、弁解を聴取することによつて留置の必要の有無の判断に大きな資料を与えるものであるから、被疑者が逮捕時に近接して右権利を保障されなければならないのは明らかであつて、刑事訴訟法上も右の趣旨から「直ちに」という言葉を用いているのである(刑事訴訟法二〇二条、二〇三条一項)。

四従つて本件における司法警察員への引致の遅延、ひいては司法警察員による犯罪事実及び弁護人選任権の告知並びに弁解の機会の付与の遅延は、逮捕に際しての手続上重大な違法と言うべきであつて、検察官所論の諸点を考慮しても右違法は治癒されるものではない。

そうすると、右逮捕を前提とする本件勾留請求も違法として許されるものではなく、本件勾留請求を却下した原裁判は正当である。

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